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Monochrome

スクール・アローン

 季節は秋。気づけば夏の暑さもどこかへと消え、冷たく乾いた空気があたりを埋め尽くしている。どちらかといえばもう冬みたいなものだが、街路樹が紅葉している様子がそうでないことを教えてくれる。
 運動の秋、食欲の秋などとよく言われるが、僕はそうは思わない。秋はぼっちが輝く季節なのだ。
 運動・食欲は毎日のように発生している事象であるが、読書はそうでない。すなわち、読書の秋であることは、自明であろう。では、読書とはなんであろうか。本を読み、その紙束に書かれている文字列を追って、周囲の人間との確固たる壁を築き上げることだ。
 読書の秋はぼっちの秋——すなわち、秋はぼっちの秋である。証明終了。
 ぼっちの秋、万歳。
 そんなことを考えつつ、いつも通り教室の引き戸を開け、中に侵入する。秋にしては湿っぽ空気が教室内を満たしている。様々なグループを形成して、銘々のおしゃべりを楽しんでいる。そのうち、何人かの生徒がこちらをみたが、興味をなくしてすぐ視線を元に戻した。僕は引き戸をしっかりとしめ、自席へと座る。
 しかしまあ、なぜこんなに朝からテンションが高いんだこいつら、と思いつつも隣の席の友人かもしれない人間の方を見やる。その友人は机にうつ伏せていた。僕はあえて話しかけずに、頬杖をつく。しばらく、意識を飛ばしていると、喧騒の中に小さな寝息が聞こえた。——やっぱり寝ていたようだ。
 僕は割と考えることが好きで、なおかつどうでもいいことを真面目に不真面目に議論するのが好きである。なんだったらこの世を憂いてみせることもある。まあ、別に憂いたところで、太宰を手に屋上に上がったりしないし、グーグル検索で世界を見たりもしない。
 まあ、とどのつまり。益体もない会話を延々と繰り返すのが、僕にとって心地のいい行為であった。
 換気のために開けられた窓の隙間から風が侵入し、僕の体温を奪う。なぜ、風たちは僕の熱を奪っていくのか。僕に空気の塊を当て逃げしていいのは、扇風機とエアコンと美少女だけなのに。
 特に、美少女がもしそういったことをしてくれるならば、いろんなところに息を吹きかけてもらおう。もしかしたら、僕はそれだけでいってしまうかもしれない。両方の意味で。
 どうしょうもない思考にも飽きて、おもむろに教室を見渡す。教室に存在するのは汚い女子ばかりだった。なぜ、茶髪にするのか。なぜ、ピアスにするのか。なぜ、存在するのか。
 僕には全く理解できなかった。理解するつもりがなかった。理解したくなかった。これは決して僕がチェリーボーイだからではない。いいな?
 特にピアスなんてものをつける輩のことを本当に理解できない。たまにつり革みたいなでかい輪っかをぶら下げている奴がいるが、あれはなんなんだ。私に乗っていいよ、という意思表示なのか? このビッチが! それに、あれを引っ張られたら、痛いで済む話じゃないだろう。
 しかも、ピアスが役に立つのはベジタブルとキャロットが合体するときぐらいなものだ。ザ・金属の無駄使い。金属の浪費反対。そんな嗜好品に使っているのはいささか勿体無い。
 まあ、そんなことはどうでもいい。僕が美少女に息を吹きかけられたい場所ランキング。これを見た、聞いた美少女だと自負している女性は僕のところに、キテクダサイ。
 五位、足の裏。
 絶妙なくすぐったさで、妙な背徳感を感じられること間違いなし! 何より、自分の足に手を添えてフーフーしている姿は是非とも五台のビデオカメラを使って様々なアングルから収めたいものだ。
 四位、首筋。
 ほのかに伝わる行きの熱さ。はぁ……はぁ……と不白から小さな吐息が聞こえる。そして程よくくすぐったいもどかしい感覚。その感覚に耐えきれずに僕はもうビンビンしてしまうのです。できれば、顔も赤く染めてもらえるとさらに上を目指せるよ! 羞恥は最高のスパイス。ようそろ。
 三位、目。
 あの眼科とかでやるプシュッと空気を出して目を攻撃してくるあの機械を人間で再現! 直前に舌なめずりや吐息を吐いてくるオプションも不可するよ! ありがとう!
 ただ、ドライアイの人にはきついかもしれない。
 二位、口。
 想像して見てください。自分のじゃない誰かの、直前まで体内にあったものが口の中に、強いては自分の体の中に入ってくる瞬間を。生暖かくしっとり師とした空気があなたの口の中を埋め尽くす。そう。それはまさに口づけ、キス、接吻などの行為とほぼ同等の興奮が得られるに違いありません。そう、美少女ならね。
 栄光ある一位、耳。
 考えてみてください。緩急つけて、耳の中の空気を抜いたりいれたりするんですよ。くすぐったさと背徳感のハイブリッド。チラリと横を見れば美しい女性が唇を突き出して息を吹きかけているのです。なんだここは! ここが噂の天国か!? 天国なら何してもいいよね!
「はーい、着席ー。ホームループ始めるよー」
 そこで、僕は妄想からの帰還を果たした。よだれが垂れていることに気がつき、それを拭う。朝登校してからそんなに時間が経っていないはずなのに、脳内では濃い時間が流れていたことになんでもないよな驚きを覚える。考え事は時々時間をも超越する。
「じゃあ、今日の連絡から——」
 そこから得られる情報は多いようで、どれも大したことなどない。そんなものを聞くよりかは寝たほうが幾分有効な時間の使い方といえよう。ぐぅ。
 
 寝ているのか寝ていないのかよくわからない、輪郭のボケた意識から生還する。ぼやけた視界がくっきり映るようになるたび、僕は自分の目を疑うことになる。なぜならそこは、見知らぬ異世界だったからだ。
 いや、こんな脈絡もなく益体もない妄想をつらつらと考えるのは良くないな。大体、あれなんだよ、見知らぬ異世界って。見知っている異世界ってあんのかよ、このやろう。いや、もしかしたら群馬かもしれないだろ、いい加減にしろ。
 まあ、僕は確かな現実世界で、数学Ⅱの授業を聞き流していた。なんの単元なのかよくわからないけど、愛とかなんだかんだと言っているから、きっと、与太話をしているのだろう。
 まあ、関係ない話をしているのならば、こちらも関係ない妄想をするまでである。どんな妄想でも余裕でできるのさ。まあ、さすがにピンクな妄想をするわけにはいかないけど。だって、授業中にオールウェイズビンビンってヤバい人間だろ。レベルマックスだって。さすがにそんな人間になれる器ではない。
 思考に一区切りつけて、黒板を見る。板書はある程度進んでいたので、書き写す必要があるなと思い、シャープペンシルなるものを持つ。これは最新鋭のクルトガだ。字が下手な奴でもある程度綺麗に見えると僕が勝手に崇拝している代物だ。僕に取ってクルトガを装備することは、それすなわち世界平和に直結するレベルだ。ありがとう、僕。頑張ります。クルトガ、万歳。でも、もうちょっと安くなれよ……。
 さあ、クルトガを絶賛したとこれで板書はしていない。ひたすらかつ丁寧に写していく。そうこうしているうちに、次の段階の説明を始める、教師。ふざけているのか。僕はまだ書き写していないんだ。やめてくれ。頼む。後少し……よし、写し終わったぜ!
 なんとか書き写せた。もはや、神と呼べるぞ、このスピード。どうも、神です。
 ……しかし、簡単だな。どこで間違えるんだよ。次の問題は――えっと、ページは五十九、と。

 ――見知らぬ、問題。

 今まで、説明を聞くのをサボっていたからか、解けない。
 えっ、これどうすんの? これであってんの?
 僕はとりあえず、適当に解いてみて、隣の奴に訊く。
 「あれ? これであってるべ?」
 聞いておいてなんだけど、勝手にノートを覗き見る。……瞬間、解答、重ねて……。多分、あっている。
 隣の奴に「まあ、あってるかわからないと」と先手を打たれる。
 ……チッ。
 僕も何か手を打とうと思い、喋る内容を考えていたら、チャイムがなった。
 どうやら、答え合わせは、次回へ先送りのようだ。
 そんな風に三時間分を過ごし、見事昼休みにワープしたような感覚に陥ることができた。感覚的に時間短縮できてるし、ワープ扱いでいいべ?
 それはともかく。僕は、鞄から昼飯とわが食事のお供、綾鷹を取り出す。とりあえず、綾鷹を開けて、一口分を喉に通す。程よい渋みが舌に残りつつ、喉の乾きを潤す。にごりはうまみ。まさにそんなキャッチコピーが頭に浮かんだ。僕は天才かもしれない。
 今日の昼飯は、いわゆるスパゲティに分類されるものだ。その分類をさらに細かくすると当てはまるのが、カルボナーラ。今日はなんとなく遠回りしてローソンに立ち寄り、わざわざ買ってきたのだ。僕は、このローソン製カルボナーラが大好きで、ローソンに立ち寄った場合は、大体これを買って帰る。
 白いソースが唇に絡まって卑猥だね。いや、僕は男だからあまり意味のないものなんだけど。
 そういえば、たまごアイス程、大人向けアイスはないよね。こう、最後らへんにぷしゅぅって。この前の祝日に食べたとき、最後にぶしゅっ、って勢いよく飛び出てきて、頭とか服にべっとりかかったんだよ。思わず、「僕は女じゃないぞ!」って叫んだ。隣にいた中学時代の友人は、理解して、少し笑ったあと、「変なこと言うな」といってきた。大変だね。誰かの妄想がはかどる? いや、僕に被妄想癖なんてないからやめてほしいのだけれど。
 ああ、別にこの話題の流れに意味はまったくないよ。気にしないでね。白いとかいうなよ。
 ともあれ、僕はカルボナーラを食べている。旨い。僕のオススメの食べ方は、最初はそのまま食べて、最後に卵を割って混ぜながら食べる、一度で二度美味しい作戦だ。やはり、若干でも味は変わるべきなのだ。そうしないと、満腹感より飽きがくる可能性がある。濃厚な味のものだから、なおさらその心配がされる。
 まあ、こんな無駄な思考をしているうちに食べ終わってしまったため(もちろん、きちんとハーフアンドハーフ作戦は実行している)、どうでもいいんだけど。……一応、後生のために考えておこうかなぁ……。
 「ボンバーマンやろうぜ」
 そう。ここ最近はおそらく毎日ボンバーマンをやっている。アイテムを駆使して、いかに爆弾で相手を駆逐できるかを競う、いわゆる戦略シュミレーションゲームだ。信長の野望みたいなものだ。ちなみに、僕は信長をただのシュミレーションゲームだと思っている。あってなくても気にすんな。
 DS――ダブルスクリーンの携帯ゲーム機の電源をいれ、ボンバーマンを起動する。すると、あの伝説のボス、白ボンさんがかわいらしいおじぎで僕を迎え入れる。癒されつつ、バトルモードを起動し、とっとと設定を始める。
 アイテムざくざく、みそぼんスーパー、サドンあり。
 これくらいあれば、僕はそれでいいと思っている。割と本気で。
 これで、白熱したバトルが始まるわけだ。
 勝敗が着く前に、チャイムが昼休みの終わりを告げた。三先勝制なのに、どういうことなの……。とりあえず、色々酷かった。それだけを伝えておこう。
 さあ、授業が始まる。とりあえず……始まるまで寝ようかな。
 ゎーぃ、放課後だー。
 ぅれしぃなー。
 でも……パトラッシュ……もう駄目だよ……。僕ゎ……頑張った……。だから……僕と……パトラッシュゎ……ズッ友だょ!
 そんな思考が駆け巡った後、頭がきちんと起動する。どうやら一昔前の世界名作劇場が、例のアレみたいな感じで流れていたみたいだ。いや、まあパトラッシュしらんけど。それはともかく、これよくあるよね。意識はあるのに身体が動かないこと。いや、普通のことじゃないんだろうけど。
 気づけば、ホームルームが終わり掃除が始まっていた。僕は立ち上がって椅子を机の上にあげる。
 なんとなく。そんなよくわからない使命感に従って教室を見回す。大体の生徒が教室に残り、おしゃべりに興じていた。大げさにリアクションするもの、他人をいじり笑いを取るもの、そばで笑っているだけのもの。それぞれが、それぞれに与えられた役目をこなす。それぞれの思う自分像に近づくために、本能的に偽物の役目を演じていく。それも、友達というものらしい。ああいるだけで、友達という役目をまかされるのなら、僕は今頃どうなっていただろうか。
 考えるだけ無駄。仮定は仮定でしかない。現実にするには、行動が遅すぎる。
 それに。僕がもしあの偽物の中にまぎれていたとしても、結局、嫌だ、という嫌悪感が見事に発動して、瞬く間には慣れていったと思う。  立ち上がり、スクールバックを背負い込む。今日は中々重いかもしれない。
 そのまま教室を出る。誰も僕に注目しないし、言葉すらかわさない。どちらかが直接投げつけることもしない。陰でこっそりと、しかも気づかれるかもしれない大きな動作で捨てるんだ。それが世間で一般的な人付き合いだ。
 だから、この教室ではたまに本音が垣間見える。僕はここが好きだ。
 善人が善人の悪口を言う。夏目漱石的に言えば、善人は急激に変化して、悪口・蔭口の類を捨てていくんだ。そうして、捨てられていった悪口・陰口の類いが溜まっているこの教室を、僕は好きだと宣言する。
 面倒くさいけど、楽しい。けどやっぱり面倒くさい。
 「メンドクセー」
 片言に呟いてみる。声音は楽しそうに聞こえた。
 極端な悪意に晒されずに、適度に無関心なこの学校生活。読書していようが何していようが、僕と、あちら側の関心は互いに、別の方向に向く。
 さすが、ぼっち。ぼっちの秋、万歳。
 僕は、まだ楽しく生きていけそうな気がした。

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